古楽夢 ~参拾五~

古楽夢(参拾五)

奈良井宿 名産店之圖/英泉画

奈良井と薮原との間にあった鳥居峠へ登り切る手前に峠の茶屋があり、ここに数軒の茶屋が立っていた。英泉はこの茶屋の1件を奈良井宿の名産「お六櫛」を売る店に仕立て、さらに峠から見えた御嶽山もここへ引き寄せてこの絵を構成している。「お六櫛」の由来は次の通りである。昔吾妻村に「おろく」という脳を患う娘がいた。彼女は病を治すため御嶽山に願をかけたところ、「みねばり」の木で櫛を作り、これで朝に有に髪を梳れば治るとのお告げを賜った。娘はそのお告げに従ったところ病は治ってしまった。そこでお六はこの御利益を同病者にも分け与えようと櫛を作って売ったのが「お六櫛」の始まりである。たまたま鳥居峠附近には「みねばり」の木が多かったところから、奈良井宿でも「お六櫛」が作られ名産として売られるようになった。この絵で「名物お六櫛」の看板を掲げた店の中では、主人が櫛を挽き女房が客に櫛を売っている。両掛にした行李を担いで喘ぎながら峠道を登ってきた人足は、天秤に腰を下ろして汗を拭いている。その前の荷主は買い求めた櫛を入れるため、行李の蓋を開けるところである。看板を眺めるだけで店の前を通り過ぎる旅人もいる。街道沿いの家の板屋根には重しの石がいくつものっている。



緒便りのご紹介


兜の緒を掛ける緒便りは、板(「緒便金」・「槍留り」「矢留りの板」ともいう)
と折釘(釘状のもの)と鐶とがある。