古楽夢 ~参拾九~

古楽夢(参拾九)

上ヶ松/広重画

上松と福島との間の中山道の西を流れる木曽川には、木曽八景の一つで、木曽随一の景勝を誇る寝覚床がある。広重はこれを描かずにここから少し南の街道の東側にあった「小野の滝」を描いている。「小野瀑布」ともいわれたこの滝も木曽八景の一つに数えられ、旅人達に深い印象を与えていた。享和2年(1802)にここを通った大田何畝は『壬戌紀行』の中で「小野の滝の左に茶屋あり、障子に名物小野の滝そば切りと書けり」と書いている。また文化2年(1805)に刊行された『木曽路名所図会』は、小野の滝は「小野村の右の路傍にあり、高さ三丈許、直下木曽川に落る、此瀑布泉は山澗より巌をつたひ只布をさらせるが如く落る」と解説している。さらに葛飾北斎も『諸国滝めぐり』の中にこの滝を描いており、後輩の広重はこの絵の可成りの部分を踏襲させて貰っている。絵の中央の岩の上に立つ祠には不動尊が祀ってあり、滝に打たれて修行する行者達を見守っていた。滝の手前に見えるのが蕎麦切を出していた茶屋であろう。滝坪から流出する小川に架かった土橋を中山道が通り、旅人2人が滝を興味深そうに眺めている。柴の束を天秤の両端に掛けて担いで行く村人は、木曽八景の一つだといえども、一顧だにしていない。



古頭形兜の紹介

鉄錆地六十間小星兜

鉄は鉄錆地六十間小星で、当世眉庇に祓立を設けている

鉄地黒漆塗六十二間小星兜

鉢は鉄地黒漆塗六十二間小星で、当世眉庇に二本角元を打つ。