古楽夢 ~四拾~

古楽夢(四拾)

須原/広重画

須原宿の北の外れの東側に、鬱蒼と茂った杉林の中に鹿島祠.が建っていた。この祠は昔木曽在の地頭眞壁氏(常陸国の土豪)が鹿島大明神を勧請して建てたと伝えられ、須原村の鎮守となっていた。広重は一天かき曇り突如として降り出した篠突く雨を逃れてこの祠へ逃げ込んだ人達や、外で逃げ遅れて慌てふためいている人達を描写している。祠の中には深編笠を被った虚無僧が縁に腰を下ろして足を組み、その前では六部笠を被り、白い装束を着た六部が、左の手を胸の前に出して何かを祈っている。夕立に歌心が沸いたのか、それとも落書か、巡礼の男が矢立から筆を取り出して祠の柱に何かを描き記している。ここまで息を切らして走ってきたと思われる風呂敷包を背負った旅人は軒下に蹲ってしまっている。祠の外では駕籠舁の1人が解体した山駕籠の屋根を傘代りにして被り、菅笠を被った相棒は担い棒を担いで祠に向かって一目散である。驟雨に煙って暗くなった街道筋や遠景はすべて黒と薄墨色の影絵で表現されている。街道を馬に乗って行く旅人は菰を頭から被って雨を凌ぎ、先で馬を引く筈の菅笠を被った馬子は、背中に蓆を引掛けて後から追っ掛けて行く。薄墨色に煙っている遠景は須原宿であろうか。



筋兜のご紹介

黒漆塗三十二間筋兜稲葉貞通所用

鉄は鉄錆地とした鉄板二百枚を
鋲留にした筋兜鉢である。

鉄地二百間筋兜 銘 宗順作

美濃国・郡上八幡五万石城主、
稲葉貞通(さだみち)所用の筋兜。
関ヶ原の役に、犬山城で戦った折
着用したものである。