古楽夢 ~五拾弐~

木曾海道六拾九次之内
伏見/広重画

 文化2年(1805)刊行の『木曽路名所図会』の中に、「これ(伏見宿)より西は多く平地なり、往還の左右に列樹の松あり、東海道の如し」と記してある。そこで広重は自作の『東海道五十三次 知立宿(三河国)』(行書版)にならって、この松並木を通ったり、木の下で休憩したりしている旅人達の絵を描いている。ところがどう見ても絵の中央の木は松ではなくて杉の大木である。伏見宿南西の犬山街道沿いにあった「伏見大杉」が有名であったことを知った広重は、おそらくこの杉を松の代りに使ったのではないだろうか。木蔭を利用して木の左の根元で昼寝しているのは修行者のようにも見える。また右で仲睦まじく昼食を取っているのは巡礼の老夫婦である。街道では大名の威容を整えるに必要な台傘を持った中間が草鞋の紐を締め、長柄傘を持った中間は煙管を吸って一服しながら相棒を待っている。行列から離れた二人はのんびりしたものである。右の方から三味線を持って歩いてくる3人連れは瞽女である。伏見宿の東の御嶽宿にある古刹大寺山願興寺(別名蟹薬師)では瞽女達に屋敷を与えて保護していた。この寺から季節を決めて地方の村落へ遊歴に向かう瞽女達がここに描かれている。左端からは薬箱を背負った田舎医者が日傘をさして歩いてくる。



縁起物金具の拵え紹介





古楽夢 ~拾四~上州高崎藩主の古文書&上州鐔の紹介と関連


寿老図目貫 無銘 河野派 四分一地 容彫 金銀色絵


 長い禿頭に長い髯、杖を持った寿老人と、その持ち物のうちわと巻物の目貫。これで鹿がいたら寿老人としては完璧。寿老の頭はつややかで、額の三本のしわ、目・口・鼻はくっきりと、髯にもきれいに毛彫が施され、衣服には石目状をつけ、肩部には七曜をいくつも金色絵する。うちわは軍配うちわ型で、鳳凰が毛彫され、房がつき、軸先に金色絵。うちわの上の巻物は軸・紐に金色絵、題箋部に銀色絵。まことに丁寧でしっかりとした作である。無銘ながら河野春明一派の作と鑑定されている。河野派の作には俳画的というか江戸趣味が感じられる。江戸後期。


小柄 秀現斎弘貞(花押)

舟乗り布袋図 四分一磨地 高彫 毛彫金・銀・赤銅・素銅象嵌色絵 裏・猫掻鑢

従者に棹を持たせ、小舟で水上をいく布袋を彫った図柄のよい小柄。布袋は筵をひいた小舟の中央で大きな袋に寄り掛かり、従者を励ますように采配をふっている。ふくよかな顔をした布袋は銀色絵、表情豊かに竿をあやつる従者は赤銅色絵、川辺に生えた芦は金色絵、素銅とした杭の上の苔は金象嵌を施した入念作である。弘貞は石河姓、水戸金工・打越弘寿の門人で、後年円象と号した。その作品のほとんどは、四分一磨地に高彫して象嵌色絵などを施した作で、和漢人物や動植物・風景画など多彩な図柄を残している。本作もルーペで覗いてみると、図が実にこまかい。江戸後期。



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